駅前でビラを配っていた人

その人は、毎週決まった曜日に、通勤客が通り過ぎるJRの駅前で、小さな手書きの新聞を配っていました。
おはようございます、とひとりひとりに声をかけていましたが、通り過ぎる人が必ずしも彼の差し出す新聞を受け取っていくわけではありませんでした。

私は最初、広告かなにかを配っているのかと思いましたが、しばらくして、その人が政治家で、手書きの新聞を配っているのだと気づきました。
そして、その新聞をもらうようになりました。

内容については、彼が考えた事やら、行った場所でこんな経験をしてこんな感想を持ったとか、そんなことだったように思います。

内容についての賛否はともかくとして、毎週必ず決まった曜日にいるので、その人をみかけると、「あぁ、今日は●曜日なんだな」と思ったり。
いつのまにか、こちらからも挨拶して新聞をもらうようになりました。
遅刻しそうで猛ダッシュのときにも、遠くから手を出して「もらうよ!」というアピールをしながらピックアップしたりして。

その後、引っ越して彼のいる駅は使わなくなりました。

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10年後。

その人は今日、95代目の首相となりました。

人生、不思議なもんですねぇ。